2011年1月28日金曜日

睦月廿九日 ファンタジー世界の財政

D&Dのゲーム世界構築のため、ちょいと手すさびに経済規模などを仮設定してみた。

今遊んでいるキャンペーンは、クランスチャンという惑星のグランビルという大陸が舞台である。
サイズは約540万平方キロメートル。アメリカ、カナダ、中国などが1000万平方キロメートルなので、その半分強というところである。オーストラリアが770万平方キロメートルなので、それを一回り小さくしたものと考えればいいかも知れない。なお、大陸北辺はシルトと呼ばれる針葉樹林帯で、ここには入植はなされていない。ここを加えればもっと大きくなる。
このシルトには、部族や村単位でゴブリンやエルフ、人間などが住まっている。
ここ数年、寒波が強まっており、これまで住んでいた地域では暮らせなくなったシルティス(シルトの住人)たちが南方へ移住し、それが混乱を引き起こし……というのが、大きな流れである。

グランビル大陸の人口は、約3000万人と設定した。
これは、かつて大陸西方のヘイストートスという都市を、「大陸最大の100万都市」などと設定したことに始まっている。ちなみに僕が高校生頃のことだっただろうか。
もう少し知恵がついてから考えると、100万都市などというものは、古代ローマとか近世では江戸・北京・ロンドンとかがあるが、中世には多分存在しない。
実際、100万都市を食わせる方法を考えるだけでも気が遠くなってくる。かなりの食糧生産能力が必要となり、相応の後背地が必要となるが、ヘイストートスを握るスィクレストン王国は、そんな巨大国家ではない。アメリカでいえば、カリフォルニアぐらいか。もうちょいあるかな。
「食糧なんて、輸入すればいいじゃない」と言いたいところだが、食糧などという重い割に値段の安い商品は、この時期の商人にしてみれば、好んで扱いたいブツではない。中華帝国クラスの強力な中央集権国家なら別だが、たとえばヴェネツィアなどはなんとか食糧を確保しようと汲々としていたぐらいである。
結局、100万都市は誇大表現で、都市周辺の人口を含むことにした。それでも大した物ではあるのだが。

これを基準にすると、大体の目処がつく。
スィクレストン王国など、仲の悪い西方三国は合計200万×3。
大陸中央に位置し、最大国家のホルニッセ帝国は、八つの選帝卿領と皇帝直轄領、光教会直轄領、西方辺境領それぞれひとつを持つ。
選帝卿のうち、東側のふたつは10年ほど前の戦争で完全に荒廃してしまっている。
というわけで、西側六つと皇帝直轄領は150万人、東側ふたつと教会直轄領は50万、西方辺境領は100万人とし、合計1300万人とした。
大陸東側のリッジウェイ帝国は、土地の広い東側が500万、狭い西側が300万、合計800万とする。
その他、亜人間各種族など、少数民族が300万人。
総合計で3000万。

この数字が多いのか少ないのか、判断に困るが、社科実情データ図録という便利なサイトがあり、ここのヨーロッパの超長期人口推移というところから引っ張ってくると、十字軍のころのヨーロッパがおおむね4000万人ぐらいだったらしい。
ただし、この世界の設定は、地球でいえば近世に入る直前から15世紀初期ぐらいを想定しているので、ペスト大流行(14世紀半ば)前のヨーロッパの人口が7000万人だったことを考えると、半数以下である。ちと少なめというところか。
しかし、この世界は150年ほど前に世界規模の大戦争を演じており、その際に人口が激減していてもおかしくないので、まぁ良いとする。

次に所得水準を設定する。
まず、農民、兵士、徒弟、貧乏な聖職者などの貧乏人、つまり平均的な人間1世帯が1日の生活に必要なカネ(というかモノを含めた価値)は、この世界の通貨で100ラートとしている。これは銀貨1枚で、無理やり現代日本円に直すと、5000円となる。無理やりと断ったのは、前近代社会と近代社会とでは、食糧のような消費財と、家具や服のような耐久消費財、武器や奢侈品などで、ずいぶんと価値が異なるためである。
ちなみに1ラートの価値は、消費財なら50円、耐久消費財なら100円、武器や奢侈品は200円で換算している。
富農、店を持つ商人、正規の職人、将校、ある程度まともな教会の司祭などが中所得層となる。彼らが自分の身分を保つために必要とする消費を行うには、200ラートを必要とする。日本円に換算する場合は100円のレートを使い、20000円と考える。
今でもある程度そうだが、ある社会階層であることを社会的に認知させるには、一定の服装や装飾品、食事や住居を持つことが要請される。ひとは他人の外見を見て、その人物を判断するのである。
で、貴族や大商人、将軍(普通は貴族と同じ意味)、高位聖職者などは、400ラート以上を必要とする。日本円に換算する場合は200円のレートを用い、80000円と考える。もちろん、上級貴族や王族となるとまた別になるが、それは措く。

で、次は税率。これは直接税と間接税の問題、階層状に形成されている各領主の取り分、教会の取り分など、かなり複雑に構成されている。
ここでは単純に、直接税のみを考えるものとし、最上位(王や皇帝。ホルニッセ帝国のみは例外で選帝卿)の取り分が10%、教会が10%、所属領主が30%とする。この数値が地球の史実に照らし合わせて妥当なのか判断が付きかねるが、5公5民なら少ないような気もする。まぁ、ここに出てくる数字以外の収入や収奪があり、そこで帳尻を付けているものとしておこう。
さて、以上の設定によれば、ホルニッセ帝国のある農民が100ラート払う場合、10ラートは選帝卿、10ラートは教会、30ラートは領主の騎士に払う。
ここで、人口100人(20世帯)の小さな村を考えよう。
騎士は、20×30ラートを得ることになるが、彼もまた収入の30パーセントを上級領主たる男爵に支払わねばならない。つまり、600ラートのうち180ラートを支払い、420ラートが手元に残る計算になる。まぁ、高貴なる身分の人間に必要な支出は、かろうじて賄えそうである。

ちょと話が脇に逸れるが、これは騎士ひとりを捻出するのに必要な最低規模をも示している。D&Dのゲーム設定では、人口20~80(4~16世帯)を集落としているが、この規模では騎士を養えないわけである。騎士ひとりを養うには100人の人口が必要である。
この数字が妥当なのかどうか、判断する材料を持ち合わせていない。そもそも、その世界における軍制(騎士の軍事的位置づけ)によって変化が出るし、当然、それを支える経済力が問題となる。貧乏人100人よりは豊かな100人の方が、養える騎士数の多いことは自明である。
ま、そういうわけで、この数字はこの世界の便宜上のものとする。この世界は比較的裕福な設定にしてあるので、この程度なら養えるだろう。

さて話を戻そう。420ラートを得た騎士だが、彼は領民のように選帝卿や教会に対して収入の10%を支払う必要があるのだろうか。
騎士が教会や王(選帝卿)に納税する義務があるのかというと、ここは微妙だ。王権や教会権の大きさや歴史的経緯に左右される。とりあえず、グランビルの諸国家では、王権は今ひとつ強くなく(少なくともホルニッセ帝国の皇帝の財政上の権力は弱い)、また教会も中世ヨーロッパのキリスト教会ほどには強くないと考えておき、騎士には納税の義務はないものとしておく。このあたりは変えるかも知れないが。
なお、仮に10%を教会に支払うとした場合、この騎士の収入は420-30=390ラートとなり、騎士身分を維持できなくなることになる。税率を上げるか、騎士を養うに足る村の規模を大きくするしかないということになるわけだ。

騎士は、180ラートを男爵に支払う。
男爵領の平均人口はどうなるのだろうか。
これも舞台によって大きく変わるのだが、かつてゲームで用いた設定で、レジオス子爵領という領土を設定した。ここはかなり裕福な領地で、4つの連隊を有しているとしている。連隊長は男爵相当(軍制については長くなるので説明しない)なので、4人の男爵がいてもいい勘定になる(実際にはひとりしかいないのだが、それも措く)。
レジオス子爵領の人口は約20万人である。つまり、男爵領ひとつあたり5万人の領民がいる計算になる。騎士数に直せば500人である。まぁ、実際にそんなに騎士がいるとは思えないが。
仮にそのまま計算を進めれば、500人の騎士が180ラートを支払えば、9万ラートとなる。うち30%の2.7万ラートは子爵に送られる。
子爵は2.7万×4と行きたいが、実際には子爵は男爵領ひとつを直轄地に持っているので、2.7万×3+9万で17.1万ラートの収入となる。
子爵の次は伯爵だが、ホルニッセ帝国においては、選帝卿に組み込まれている伯爵は子爵とほぼ同じ扱い(格だけは上)なので、この上は選帝卿(侯爵と公爵の差はない。これについても措く)になる。
レジオス子爵の上位は、オラーニュ選帝卿である。オラーニュ選帝卿の下には、レジオス子爵領以外に3つの子爵・伯爵領と、直轄領がある。つまり5つの領土があるわけである。仮にこの基準を当てはめるとしたら、17.1万ラートの収入を得た子爵は、30%の5.1万ラートを選帝卿に納めるので、選帝卿の収入は、5.1万×4+17.1万=37.5万ラート。
この計算は、一日あたりの収入なので、歳入を計算してみると、1.4億ラート。日本円換算で70億円。
これに加え、選帝卿は民が直接払う10%税を得る。このモデルにおける人口は、20万×6で120万人となっているので、ひとり10ラート支払うわけだから、一日あたり1200万ラート。一年では43.2億ラートとなる。手下の諸侯や騎士からの揚がりなんて目じゃないね。
ちなみに日本円で4320億円。あまり意味のある比較ではないが、Wikipediaによると、2005年の大分県の人口がだいたい120万人である。で、大分県の予算規模は、5904億円(2009年度)
本当なら15世紀初頭頃のヨーロッパで、人口120万人ほどの王国の予算規模を知りたいのだが、まぁ無理だろう。

こんな感じでデータを作っていると、他にも色々と想像を巡らせられる。
例えば、オラーニュ選帝卿領の常備兵力は、120万人の人口に対して12000人の騎士として表せる。これはプファルツやピエモンテなど、他の選帝卿家でも同じ事。
が、オラーニュは歩兵を重視しており、騎士ひとりに対して歩兵が約10人程度就く。つまり、騎兵1.2万と歩兵12万人をさほど無理なく動員できると設定できるわけである。
プファルツは騎士を重視しており、騎士ひとりに対して、従騎士ひとり、歩兵4人が就く。つまり、騎兵2.4万と歩兵4.8万を動員できる。プファルツの方が強いのではないかと思うところだが(いや、実際帝国最強としているが)、プファルツの歩兵はオラーニュのそれほど高い戦闘力を持っていない。これは個人戦闘能力の問題ではなく、軍制上、プファルツは歩兵を重視していないためである。オラーニュは歩兵を重視しており、弓兵として使えるよう訓練しているため、総合戦闘力としては、さほどプファルツに劣るわけではないということになる。
で、ピエモンテは騎士ひとりに対して歩兵が2人ほどしか就かない。つまり騎兵1.2万と歩兵2.4万。しかもこの歩兵はプファルツのそれ同様、騎士の護衛となる従卒として使われるので、オラーニュのそれほどの戦闘能力を持たない。
それではダメなのでは? となるが、ピエモンテはその分のカネを平時は経済活動に投じ、有事には傭兵を雇用することで賄っている。傭兵の戦闘能力は高いので、これはこれで馬鹿にならない。他の諸侯も傭兵は使うのだが、ピエモンテとは異なり、補完的に用いている。

このようにして各諸侯を個性付けていくわけである。なかなか楽しいのだが、面倒くさいのもまた事実。
これに、教会組織をどうのこうのとか、間接税や商人たちの資本移動なんかを考え出すと、面白くはあるのだが時間がいくらあっても足りないので、とりあえずこんなところとしておく。

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